badactor 1st
single"begin"
release interview
date:2023/03/10(fri)
place:inokashira park
writer:峯岸 利恵
――badactorの結成はいつ頃なんですか?
小峯健太(Vo/Gt)「18歳の時に始めたバンドなので、10年以上経っていますね。そこからオリジナルメンバーも、その後加入したメンバーも抜けたタイミングで、福ちゃんが一緒にやってくれることになったんです」
福田大規(Dr/cho)「俺が入ったのが2018年なので、加入5年目に入って、芦澤さんがサポートとして最初に入ってもらってからは2年半くらいかな?」
小峯「そうだね。僕と福ちゃんは地元が同じ秩父の同級生なんですけど、別の高校に通っていたんです。その時に福ちゃんがやっていたFORMALINとも特に繋がりはなく、友達ではあったけど特に交わることもなかったよね」
福田「本人にも言ったんですけど、僕は当時のbadactorをカッコイイと思ったことが一回もなかったんですよ。自分の尖った部分が由来した気持ちでもあったんですけど、友達としては付き合っていきたいけど、バンドマンとして一緒に何かをすることはなかったんです。でも、何かのきっかけで、健ちゃんと、Tree of
Lifeのタカヤさんと一緒に地元・秩父で企画をすることになった機会をきっかけに、距離は縮まりましたね」
――そこから加入に至るまでになったのはどうして?
福田「俺がFORMALINを辞めた後に、健ちゃんの弾き語りライブを観に行ったら、めちゃくちゃ良かったんですよ。なので、加入しました。バンドとしてはダサいけど、音楽人としての健ちゃんに惚れ込んだ、という感じですね」
小峯「福ちゃんに、badactorはカッコ良くないと言われましたけど、正直自分でもそう思っていたんです。元々はキラキラした歌モノ系のバンドをやっていたし、それでも、その時は自分がやりたいと思ってやっていたんですよ。でも、その後に地元の先輩から教えてもらったeastern youthを聴いて、今までの自分の考え方を全て打ち崩すかの如く強烈に食らったいましたね」
福田「僕自身も最初はeastern
youthをちゃんと聴いてこなかったんですけど、自分がパンク/ハードコア畑の人間だったということもあって、badactorに入って改めてちゃんと聴いた時にはしっかりと響きましたね。こう、表面ではなく胸の奥に火を灯してくれる音楽というか。そういった音楽性を持ち始めたbadactorは、すごく肌に合っているなと思います」
――そうした現在のbadactorの基礎となる部分が築かれ始めてから、芦澤さんが加入したということですが、ここの繋がりはどういったものなんですか?
芦澤求(Ba/Cho)「だーふく(福田)がFORMALINをやっていた時に、僕がやっていたzan80zというバンドで何度か対バンしていて、顔見知りではあったんですよ。だーふくもzan80zを凄く気に入ってくれていたんですよね。90年代ギターロックを彷彿とさせる音楽性だったこともあり、同年代の人からのウケは良かった中で、僕より下の世代である彼が気に入ってくれたことが嬉しかったことを覚えていて。そこから僕がzan80zを辞めて、その後やっていた他のバンドで秩父ladderladderに出た時にたまたま再会したり、zan80zのサポート活動をすることになったタイミングでbadactorと対バンする機会があったりと、色々と機会が重なったんです」
福田「その後、badactorのベースメンバーが抜けた時に芦澤さんを誘って一緒に酒を飲んで、酔わせて、サポートしてもらう約束をしました。酔わせた方がいい返事くれるだろうと思って(笑)」
芦澤「だーふくの思惑通り、いいよって言いましたね(笑)僕自身、eastern youthがめちゃくちゃ好きだし、その頃のbadactorのジャパニーズ・オルタナティブ感が良いなと思っていたので、嬉しかったですけどね」
福田「コロナ禍だったこともあったし、他に頼んでいたサポートメンバーも生活上のタイミングが合わなかったということもあって、「これは芦澤さんしかいない!」と思って、お声掛けしたんです」
――実際にサポートメンバーとして入ってみては如何でした?
芦澤「それが、めちゃくちゃ居心地が良いんですよね。正直ふたりとは年齢が10歳も離れているし、サポートメンバーでいることが丁度良いなと思ってはいたんですけど、実際に一緒にやると、健ちゃんがやりたいことが自分にとってのやりたいことでもあったんだと気付いたんです。eastern youthが好きだというバンドマンって沢山いると思うんですけど、その「好き」という想いをしっかりと“バンド”で表現できる人は意外と少ないし、それができるのがbadactorの魅力だと思います。あとは、無理に寄せていこうとせずとも、ふたりのマインドに自分も自然と調和できたというのは大きかったです。だーふくのドラムも凄く自分の肌に合うし、上手い下手という評価ではなく、純粋に相性が良いなと思いますしね」
福田「いやあ、酒が進むなあ!」
全員「(笑)」
芦澤「人が勧めてくれる音楽ってあんまり聴いてこなかったんですけど、ふたりが教えてくれる音楽に間違いはないので、聴いちゃいますしね。そういう信頼もありますし、そういう付き合いができるメンバーは初めてだったので、幸せだなと思います」
福田「僕らも、まさか芦澤さんが10歳も離れているとは思っていなかったんですけどね(笑)でも、そういう部分を飛び越えてしまえるくらいにマインドが合う3人なんです」
小峯「本当にそうだよね。僕は正直、サポートをお願いするとなった時から、絶対に芦澤さんにメンバーになってほしい!と思っていたんですよ。一緒にスタジオに入った時にも、物凄くワクワクしたし、サポートなのに、サポートらしからぬグルーヴ感があったんです。でも、自分たちのやっている音楽をちゃんと解ってもらった上で、逆に芦澤さんから「正規でやりたい」と言ってもらえるくらい頑張らなきゃなと思っていたので、本当に嬉しいです」
――そしていよいよ、今作『begin』をきっかけに芦澤さんが正式加入するということですが、小峰さん的に今の状況は如何ですか?
小峯「もはや、この3人じゃなきゃバンドはできない、と思えるくらいの理想的状態ですし、ふたりの内のどちらかが辞めるとなったら、badactorもやらないと言えるくらいに完璧なんです。そういう意味でも、この3人で新たなスタートを切る『begin』をリリースできて良かったと思っています」
――「安心感」や「安定感」の上で成り立っている今のbadactorだけれども、その言葉とは反対に、「begin」という言葉に相応しいほどに、今までには無かった要素がしっかりと含まれている2曲なのが良いですよね。
福田「健ちゃんのピュアさが際立ちますよね。健ちゃんって、良い意味で、badactorと自身の生活以外の何にも干渉されない人だし、本当に良いと思ったものに対してしか良いと言わない人なんですよ。僕らがあれもいいよね、これもいいよね、と動いたとしても、彼がしっかりと舵を取って「badactorはこうだから」と提示してくれますし」
小峯「曲に関しては、本当に、その時その時に感じたことについてしか書けないんです。なので、深い意味自体はないんですけどね」
――でも、「新しい朝」ではふたりのコーラスが入っていたりもして、今までに無い点ではありますよね。
小峯「昔は、ライブはがむしゃらにやってナンボだし、正直何を歌っているかは分からなくていいと思っていたんです。でも今は、歌詞自体も自分が聴き手に伝えたいことしか書いていないつもりなので、ライブでもちゃんと歌が聴こえるように、歌を先頭にして、楽器隊が後ろでそれを支えるという構図がベストだなと思っていて。その「歌詞の伝わり方優先」という考え方の下で、今回はコーラスを入れてみました」
――ハモリではなく、歌詞を反復するコーラスだからこそ、より伝わりますよね。
小峯「そうなんですよ。元々歌の伝わり方に関して考えてはいたんですけど、メンバー内で共有してはこなかったんです。でも今回は、この歌詞のここをより伝わりやすくするにはどうすればいいか?というのを3人で初めて話し合っていきました」
――そういった「歌最優先」の考え方にシフトチェンジしたのには、何かきっかけがあるんですか?
小峯「BAD ATTACKという尊敬する先輩バンドの影響ですね。がむしゃらで、めちゃくちゃ汗をかくくらい勢いがあるライブでも、真っ先に入ってくるのが歌なんです。もう40歳を過ぎている方たちなんですけど、歌で聴き手の感情を揺さぶり、ずっと変わらずにキラキラし続けていることがめちゃくちゃカッコいいし、ずっと憧れです。なんというか、真似したい訳ではないんですけど、こういうバンドで在りたいという理想に一番近いバンドというか。そういう先輩の姿に憧れつつ、今の3人のbadactorならそれが出来るなと自然と腑に落ちた感覚です。ライブしていても楽しいですしね」
福田「今まで、曲云々というよりは、ステージに立って爆音を鳴らして聴き手を圧倒するという爆発的ステージングが武器だったんですけど、健ちゃんの歌詞を読みながらドラムフレーズの考えている時にも、ちゃんと良いこと書いているんだから、ちゃんと届いてほしいよな、とは常々思っていたんです。言葉選びの意外性や面白さもある歌詞なので、健ちゃん自身がそうやって明確に歌を届けたいと言ってくれるようになったことが嬉しかったですね。そういう全員で気持ち良く音を鳴らして気持良くする、というフェーズから、小峯健太というボーカリストを立たせるバンドに変わっていったのも、芦澤さんが入って以降の2年間での変化なので、badactorとしてもやっぱりこの2年はデカいですね。1人×3=badactorではなく、3人=badactorになってきたというか」
――「新しい朝」はそこのバランスの良さが際立っていますよね。
福田「健ちゃんは、曲がカッコいいからこそ、自分の可能音域を無視したボーカルでがむしゃらにやってきた節はめちゃくちゃあるので、そこを俺と芦澤さんのふたりが加わることでより気持ち良く、より届くように上手くコミュニケーションを取りながらバランスを考えられたなと思っています。この曲はレコーディングも2テイクでバシっと終わりましたし、そういう意味でも、自分たちが一番自然体でいられるバランスや空気感なんだなと思います」
――一方の「ビー玉」は、元からあった曲なんですか?
小峯「これはコロナ禍に入って、ライブが出来なくなってから作った曲ですね。コロナ禍だったこともあり、当時することがなさすぎた故に、今までで一番作詞に時間を掛けた楽曲でもあります。その頃、山奥にあった実家を取り壊して引っ越した後だったんですけど、ふと「取り壊した実家の跡ってどうなっているんだろう?」と思って車で行ってみたら、本当に更地になっていたんです。その足で、通っていた小学校や幼い頃によく遊んだ川など色々巡りながら、車の中でギターを弾いていたんですけど、その時に作った曲です」
――そのノスタルジックな雰囲気は曲に表れていますよね。でも、だからこそ今のモード全開の「新しい朝」と対比が美しいと思います。
芦澤「でも、もう1 曲をどうするかを決める時には、対比性については全く考えず、3人で純粋に「この曲にしよう」と決めましたね」
小峯「自然と共通性や対比性のある2曲になったというのは、やっぱり3人のマインドが近しいものだったからこそなんだろうなと、今になっては思いますね」
福田「シンプルだからこそ歌も響くし、変にテコ入れせずとも健ちゃんの歌があれば全部納得できるなと思えた最初の楽曲でもありますし、そういう意味では「新しい朝」と同様に始まりの曲だとも捉えられますしね。この曲の間奏部分の語り部分に「青すぎる空」という言葉が入っているんですけど、これは、群馬の先輩バンドのメンバーの方が亡くなってしまった時に作った同名の曲からきている言葉なんです。それをこの「ビー玉」に敢えて入れたのは、ダサかった時も情けなかった時もあったけれど、その時に自分たちが感じた「正解」を突き詰めてきた過去をしっかりと今に継承しながら前に進んでいこう、という決意表明でもあります」
――「これまで」と「これから」も、badactorにおける全ての時系列を内包する作品になったし、ここからまたbadactorは始まっていくんですね。
芦澤「今日話して思いましたけど、どうしようもなく人間臭いバンドだよね」
小峯「いやあ、本当にそうですよね」
福田「いい意味でどこのジャンルにも属さない、カッコいいバンドでいたいですね」